
今から20数年前、私は教え子たちを連れて、学校の近くの多摩川に行きました。
今でもよく覚えていますが、夏の暑い日で、川辺は日陰もなくて、
生臭く、水辺はハエがたかっていました。橋の上から川の中を見ると、
大きなコイがゆらゆらと泳いでいる以外に生き物は見えず、
空き缶やタバコの吸殻などもひどく、子どもたちもうんざりした顔をしていました。
子どもたちに、理想の川にするには?と聞いたら、出てきたのは次の3つでした。
1…水をきれいにする 2…ゴミをなくす 3…生き物を増やす。
さて、それから20年。多摩川は大きく変わりました。
羽村取水堰から流れる上流からのきれいな水が増え、下水処理が進み、
魚道が多数整備されました。
その結果、水はきれいになってゴミが減り、生き物の種類も増え、
一時絶滅していた天然のアユが数百万匹も遡上するようになりました。
そこで再び、現在の子どもたちを連れて行き、理想の川を考えさせるとどうでしょう。
20年前の川と比べたら、かなり問題は解決されているのですが、
1位はやはり『水をきれいにする』2位は『ゴミを少なくする』でした。
見せているものはまったく違うのに、同じような答えしか返ってこない…。
なぜだろう、これでは、将来豊かな川になるのかと疑問に思いました。
でも地域のお年寄りに昔の話を聞いた時、その理由がわかってきました。
昔の多摩川はもっと緑が多く、あちこちに湧き水があって、
本流は豊かな水が大きくうねっていました。
瀬や淵にいろいろな魚が群れ、ワサビ田や小川が多様な自然をつくり、
沢ガニや淡水シジミ、平家ボタルも見られたそうです。
お年寄りは、本当の自然を知っていて、そこでカニをとったり、
小魚を釣ったりして遊んでいたのです。
今の子どもは、近くの川がそんな素晴らしい場所だったなど知るはずもないし、
まして、遊んだり、体験したりがほとんどないのです。
基準にする自然がわからないのです。
教えなければわからないし、経験しなければ育たない、それがエコの心です。
未来の環境を創る子どもたちの心のより処となるような、美しい自然を、
今のうちにたくさん見せて、たくさん体験させてあげましょう。
子どもたちを本物の自然に触れさせること、体験させることは、とても大事。
未来の地球の基準を作ることなのです。